安全、でも食べちゃ駄目?
神奈川県の学校給食で使用予定だった同県産の冷凍ミカンから先月、国が決めた基準値以下の放射性セシウムが検出された。この影響で、横浜市は6、7の両月、鎌倉市は年度内の使用をそれぞれ取りやめた。検出された数値は基準値を大幅に下回るが、両市は「安心のため」と説明。しかし、「科学的根拠に基づかない独自の判断での使用中止は、子供たちが放射性物質について正しく理解することの妨げになる」との声も上がっている。(平沢裕子)
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子供にどう説明
検出された放射性セシウムは、横浜市で1キロ当たり3・2~11ベクレル、鎌倉市で同8・1ベクレル。国は野菜や果物は同100ベクレル以下を基準値としており、検出された数値はこれを大幅に下回る。
横浜市の林文子市長は「基準値を大きく下回り、健康上の問題はなく、安全であることを確認した」としながらも、「学校給食の特性を踏まえ、子供に配慮し、保護者からの不安の声を受け、判断した」とコメント。しかし、小学3年の子供を持つ母親は「安全と言いながら使わないというのを子供にどう説明すればいいのか。そのミカンはどうなるのか、業者への対応にいくらかかるかなど、中止による影響も一緒に説明してほしい」と憤る。
鎌倉市教委は「安全であることは理解しているが、複数回提供するので児童への影響を考えて中止を決めた」と説明する。だが、基準値ぎりぎりの数値の食材を毎日食べ続けても体への影響がないとされており、基準値を大幅に下回るものを給食で複数回食べる程度なら健康には全く問題がないといえる。この点について、同市は「不安の声が寄せられており、安心のため」とする。
損害、どこが負担
同県産の冷凍ミカンは川崎市や横須賀市の給食の献立にもあり、川崎市は事前検査で同9・1ベクレルを検出したが、予定通り給食に使用している。
基準値を超えた食品ならそれに対する損害は東京電力に請求できるが、基準値内の食品は対象外だ。
川崎市では、県内産指定の年間契約で冷凍ミカンを作ってもらっており、使用しない場合、1500万円以上の食材費が無駄になるという。廃棄処分となれば、さらに費用が増える。契約内容は各自治体で異なるが、横浜、鎌倉の両市でも同様の費用負担が発生する可能性がある。
これに対し、横浜市教委は「学校給食会に任せており分からないが、これから業者と話をつめる」、鎌倉市教委は「協議中」としている。
より大きな問題は、子供の放射性物質に対する理解を妨げる点だ。給食で使用しないことは、「基準値以下でも放射性物質が検出されたものは食べられない」と示したことになる。
放射性物質について正しく理解し、正しく恐れ、正しく判断することができるようになるには教育の力しかない。その教育の場で、科学的根拠を無視した対応を取ることが子供に与える影響は計り知れない。
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科学教育不足の弊害か
日本科学教育学会会長で愛知教育大学理科教育講座の吉田淳(あつし)教授の話
「専門家が決めた安全基準はかなり厳しい数値といえ、それを大幅に下回る食品を給食で使用しないのは過剰な対応だと思う。これによる野菜・果物不足の方が体への影響が大きいと考えるべきだ。ただ、放射線や放射性物質については、行政担当者、教員ともに正しく理解している人がそれほど多くないのが現状で、これまでの科学教育不足の弊害の大きさを痛感する。子供たちへの影響を考えれば、行政担当者や教員には放射線や放射性物質を正しく理解し判断できる科学的素養(リテラシー)を身に付けてもらいたい」